2016年御翼4月号その4

信仰は人間を強くする―― テストレイク機長/N・V・ピール

 

 1985年六月、地中海上空で起きたトランスワールド航空847便のハイジャックのときの出来事は、絶体絶命の状況に追いこまれたとき、信仰がどれだけ人間を強くするかという格好の例である。
 機長はジョン・テストレイクという飛行歴三十余年のベテランパイロットだった。燃料補給のためレバノンのベイルートに着陸したとき、強い信仰心の持ち主であるテストレイク機長は決定的瞬間を迎えた。どこで燃料を補給するか航空管制塔と連絡をとっているとき、すでに乗客を一人殺している凶暴なハイジャッカーたちは極度の興奮状態にあった。管制塔は飛行機に燃料補給エリアに乗り入れるよう求めたが、待ち伏せを恐れたハイジャッカーは、滑走路での補給を要求した。結局、ハイジャッカーは補給エリアへの乗り入れを承服し、機長は一五三名の乗客と乗員を乗せた飛行機を指定された場所に進めることになった。
 「首筋に銃口を突きつけられ、顔には手投げ弾を押しつけられ、すっかり緊張しました。彼らはイスラム教の中でもとりわけ過激なシーア派の教徒で、信仰のために身を捧げればあの世で厚く遇されると信じている連中で、一種のヒステリー状態におちいっていました。燃料補給エリアで予想外の動きがちょっとでもあれば、即座に流血の惨事を招きかねません。誘導路を走っていたときの気持ちはいまだに忘れません。全員死ぬのではないかという気がしました。私はスロットルレバーを握りました。もはや怖がっている場合ではありません。何とかしなければならないのです。それには神を信じるよりはありません。とうの昔に神に委ねた身です。私が本当に神を信じる気があれば、どこまでも信じるべきです。もしキリストに私を生かす気があれば、ハイジャッカーが引き金を引いたり手投弾を投げたりすることはあるまいと自分に言い聞かせました。スロットルレバーをしっかり握ったまま、私は腹をくくって飛行機を補給エリアにじりじり進め、エンジンを切りました」
 テストレイク機長は、あのような息詰まるような状況で冷静でいられたのは一重(ひとえ)に信仰のおかげであり、何も格別なことではないと言った。飛行機の操縦が彼の一部になっているように、信仰も彼の一部になっており、信仰は年を追って強まっているという。
 ひたすら神の存在を信じて十七日、ついにテロリストは乗客を解放し、犯人らは逮捕された。あのとき、もし機長が強い信仰心の持ち主でなかったらどうなっていただろうか。あの危機的瞬間に彼は動揺し飛行機も乗客も悲惨な運命をたどることになったのではあるまいか。ハイジャックに遭遇した場合にせよ、もっと日常的な、例えば仕事のうえで窮地に立たされた場合にせよ、神へのゆるぎない信仰があるかないかで、持ちこたえるか倒れるか、そこに大きな差が出てくる。
 自分は何も信じないという人は、社会に適応できなくなる危険性が大きい。経験的にみて、物事を見くびりけなす癖のある人はおおむね成功できない。私は各界における成功者を大勢知っているが、@神、A家庭、H会社、C部下、D国家、人生そのものを大事だと信じていない者は一人もいない。そして、最後には自分がこれと決めたことをやり遂げることができるのだ。

 どうすれば、神、家庭、自分の人生を信じられるようになり、成功者となれるだろうか。まず第一に、信じようとしない心の姿勢を改める必要がある。否定的考えを排除する最良の道は、否定的な考えが起きたらすぐさま肯定的な考えと入れ替えるようにすることである。
 次の段階は……かりに最初のうちはそう信じていなくても……「自分は成功する」と自分に言い聞かせることである。自分はこうなりたいとくり返し言い聞かせるうちに、それは意識下に植えこまれ、やがて自分がなりたい人間になる手助けをしてくれる。                         
 第三段階は「自分は信じる」とくり返し口で言って確認することである。そうすることで、長年習慣化していた信じない姿勢のもたらす弊害がとり除かれるだろう。ものの考え方というものは、長い年月の間に養われるものである。毎日少なくとも25回「神は私を愛しておられる、神は私がベストを尽くすことを望んでおられる、神は私を導いてくださる≠ニ信じます」と大声で言おう。そうすれば、ものを信じない心にこの新しい力強い真理が浸透していくだろう。
 第四段階は冒険をする勇気をもつことである。不可能に思えたことが可能になり現実のものとなるまで、そうなると信じるのだ。これが実現不可能に思えることを実現しやり遂げる秘訣である。
N・V・ピール『生きるって素晴らしい』(ダイヤモンド社)より

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